大判例

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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)11678号 判決

原告

星恵三

右法定代理人親権者父

星光平

同母

星千恵子

代理人

増渕俊一

被告兼訴訟告知人

株式会社大道建設

外一名

代理人

伊藤末治郎

訴訟被告知人

日動火災海上保険株式会社

主文

1  被告らは、連帯して原告に対し一〇四万三一五〇円およびうち九六万五一五〇円に対する昭和四三年一〇月一七日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

2  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は、これを一〇分してその一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

4  この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の申立

一  請求の趣旨

1  被告らは、連帯して原告に対し一一四万一四〇〇円およびうち一〇四万四八八五円に対する昭和四三年一〇月一七日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。

2  訴訟費用は、被告らの負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

との判決

第二  当事者の主張

一  請求の原因

(一)  事故の発生

原告は、次の交通事故(以下、本件事故という。)によつて負傷した。

1 発生時 昭和四二年一二月二五日午後二時四〇分ごろ

2 発生地 東京都荒川区町屋七丁目二番一五号先道路上

3 加害車 大型貨物自動車足立一そ三三四〇号

運転者 被告相田金作(以下、被告相田という。)

4 態様 被告相田は、加害車を運転して道路左側に駐車していた自動車の側方を通過する際、右駐車中の自動車の脇に居た原告に加害車を接触させた。

(二)  責任原因

被告らは、それぞれ次の理由により原告が本件事故によつて蒙つた損害を賠償する責任がある。

1 被告株式会社大道建設(以下、被告会社という。)は、加害車を所有してこれを自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条による責任。

2 被告相田は、本件事故の発生について前方不注視、安全運転義務違反の過失があるから、不法行為者として民法七〇九条による責任。

(三)  損害

原告は、本件事故によつて右大腿および下腿挫創、踵骨々折の傷害を受け、昭和四二年一二月二五日から翌四三年三月二日まで入院し、退院後も一九〇日にわたり通院して治療に努めたが、右傷害は以下の如き障害を遺して固定した。

イ、右膝関節および右足関節に軽微な機能障害

ロ、右足関節部にケロイドがあり、頑固な神経症状を残す。

そして右ロの後遺障害は労災一二級一二号に該当するものであるが、将来このために職種制限が起ることを予想すれば、同九級に該当するものとして取扱うべきである。この損害額は、次のとおり算定される。

1 医療費残額 二三〇〇円

2 看護料 三万六〇〇〇円

原告の母親は、二〇日間にわたり原告を看護した。

3 牛乳代 一七二五円

原告の昭和四二年一二月二五日から同四三年三月二日まで六九日間の牛乳代

4 交通費 四八六〇円

原告の通院に付添つた母親の交通費一回六〇円の八一回分

5 慰謝料 一〇〇〇万円

原告の前記傷害の部位・程度に鑑みれば、その精神的苦痛を慰謝すべき額は頭記金額が相当である。

6 原告は、保険会社から二八万九八五〇円の損害賠償額の支払いを受け、それを本訴における請求外の原告の入院中の医療費および付添料に充当した。

7 弁護士費用

以上のとおり原告は被告らに対し一〇四万四八八五円を請求しうるものであるところ、被告らは、その責任を否定するばかりか原告の過失を強弁して不当に抗争をつづけており、これらの行為は明らかに不法行為を構成するものであるから、原告が本件原告訴訟代理人に本訴を委任した際右代理人に対し負担した謝金として本訴認容額の一割にあたる九万六五一五円を支払うべき債務を賠償する義務がある。

(四)  結論

よつて、原告は被告らに対し一一四万一四〇〇円およびこれから前記弁護士費用を控除した一〇四万四八八五円に対する訴状送達の日の翌日である昭和四三年一〇月一七日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する答弁

(一)  請求原因第(一)項中、5の事故の態様は否認するが、その余の事実は認める

(二)  同第(二)項中、2の被告相田に過失があつたことは否認する。被告相田は加害車を運転して本件事故発生地に差しかかつたところ、進路左側にミゼットが駐車していてその中に二、三人の子供が入り、その右ドアーの外側に原告がドアーに手を掛けてぶら下つているのを認めたので、右ミゼットの手前で一時停止して安全を確認したのち発進し、右ミゼットとの間に一メートル以上の間隔をとり、バックミラーで安全を確認しながら徐行して右ミゼットの側方を通過しようとしたものである。

(三)  同第(三)項の事実は総て不知

(四)  同第(四)項は争う。

三  抗弁

本件事故の発生は原告が前記ミゼットのドアーにぶら下つていたところ、その中にいた子供がドアーを開けたために原告が加害車の進路に転落したことが原因であつて、自動車の運行が頻繁な道路に原告を遊ばせたその監護者たる原告法定代理人星光平および星千恵子の過失によるものであるから、原告の賠償額を算定するにあたつては被害者側のこの過失を斟酌すべきである。

四  抗弁に対する答弁

否認する。本件事故の発生地は幅員約5.9メートルの裏通りであつて、被告相田は交通の渋滞する通称尾竹橋通りを避けて自動車の交通量が少ない裏通りを迂回して進行しようとし、本件事故を惹起したものである。

理由

一(事故の発生)

請求原因第(一)項は、事故の態様を除き当事者間に争いなく、本件事故の態様は後記認定のとおりである。

二(被告会社の責任)

被告会社が加害車を所有していたことは被告会社は明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。したがつて、被告会社は加害車の運行供用者として自賠法三条により原告が本件事故によつて蒙つた損害を賠償する責任がある。

三(被告相田の責任)

〈証拠〉によれば、次の事実を認めることができる。

本件事故発生地は東京都荒川区荒川四丁目先の通称宮地ロータリーから隅田川にかかる尾竹橋に通ずる通称尾竹橋通りの裏通り上であつて、右裏通りは幅員5.9メートルの簡易舗装道路であること、尾竹橋通りは自動車の交通が頻繁な幹線道路であるが、右裏通りの自動車の交通量は少ないこと、本件事故発生地には尾竹橋方面に向つて道路左側端に軽三輪貨物自動車ミゼットが駐車しており、道路の有効幅員は4.6メートルにせばめられていたうえその路上では数名の子供がドッチボールをして遊んでいたこと、加害車はいわゆるダンプカーであるが、被告相田は土砂を積載した加害車を運転して宮地ロータリー方面から尾竹橋方面に向つて右裏通りを進行し本件事故発生地付近に差しかかつたこと、ドッチボールをしていた子供達は加害車が進行してきたのを認め競技を中止して尾竹橋方面に向つて道路の右側端に一列になつて待避したこと、原告は本件事故当時満五歳で幼稚園に通つていたこと、原告の自宅は本件事故発生地から百数十メートル離れており、事故当時は友達のところに遊びにきていて右ミゼットの右ドアーのところに寄りかかるようにして同車の運転台にいたものに話しかけていたこと、ちなみに、原告には監護者が付添つていなかつたこと、被告相田は警音器を吹鳴するなどして原告らに加害車の進行について警告を与えることなくそのまま加害車を低速で進行させて右ミゼットの右側方を同車の右側面と加害車の左側面との間に約一メートルの間隔をとつて通過しようとしたこと、加害車の左後車輪が原告の右下腿部を轢圧したこと。

以上の事実を認めることができる。〈証拠判断・略〉。右事実によれば、被告相田は加害車を運転して幼児の直近を通行するに際してその動向を十分に確認しなかつたものと推認することができる。そうとすれば、被告相田は本件事実の発生について過失があるから不法行為者として民法七〇九条により本件事実によつて原告に生じた損害を賠償する責任がある。

四(過失相殺)

原告は、前記のとおり本件事故当時満五歳の幼児ではあつたが、幼稚園に行つていたのであるから、現時の幼稚園において実施されている交通安全教育等を考慮すれば、原告には交通事故による損害についてその発生を回避しなければならない注意をする能力があつたと認められるところ、前記認定事実によれば、原告は直近を通行中の加害車があるのに身体を移動させたことを推認することができるので、原告のかかる不注意な挙動はその賠償額を算定するにあたつて斟酌されなければならない(仮に原告に右の能力がなかつたとしても、原告の監護者である法定代理人星光平および星千恵子は、本件事故当時原告を、自動車の交通量は少ないとはいえ交通の渋滞することの多い尾竹橋通りを迂回して通行する自動車が間々ある道路上に放置したものであるから、監護者としてなすべき注意を怠つたものというべきである。)。そして斟酌の程度は原告のこの挙動を被告相田の前記過失と対比すると、賠償額についておおよそ二割とするのが相当である。

五(損害)

〈証拠〉によれば、原告は、本件事故によつて右下腿挫創、踵骨々折の傷害を負い、昭和四二年一二月二五日から翌四三年三月二日まで木村病院に入院し、退院後も一九〇日間(うち治療実日数八一日)にわたり同病院に通院して治療を受けたが、右傷害は次のような障害を後遺して固定したことが認められ、〈証拠判断・略〉他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

イ  右膝関節および右足関節に軽微な機能障害

ロ  右足関節部に労働者災害補償保険一二級一二号程度の(ただし、このために将来の職種制限が起ることを予想すれば、同九級に該当するものとして取り扱うのが妥当な)ケロイドと頑固な神経症状

そしてその損害額を算定すると次のとおりである。

1  医療費等

〈証拠〉によれば、原告は次のとおり医療費等として二万八八八五円を要したことが認められ、また、原告は本訴請求外の医療費および付添費として二八万九八五〇円を要したことを自陳するから、原告が本件事故によつて蒙つた財産的損害は結局三一万八七三五円になるところ、右事故の発生については原告にも前記のとおり過失があるからこれを考慮すると、原告が被告らに対し請求しうる財産的損害は二五万五〇〇〇円とするのが相当である。

(1)  医療費 二三〇〇円

木村病院に対する医療費の残額である。

(2)  看護料 二万円

原告は前記入院中前記星千恵子が二〇日間にわたり原告に付添つた費用として三万六〇〇〇円を主張するが、原告は他にも自賠責保険から相当額の付添費の支払いを受けていることを自陳しているので本件事故と相当因果関係のある千恵子の看護料としては頭記金額をもつて相当とする。

(3)  牛乳代 一七二五円

原告の入院中の牛乳代である。

(4)  交通費 四八六〇円

原告の通院に付添つた前記星千恵子の交通費一回六〇円の八一回分である。

2 慰謝料

前記原告の傷害の部位・程度、被告相田と原告の過失割合等諸般の事情を考慮すると、本件事故によつて原告が蒙つた精神的苦痛に対する慰謝料額は一〇〇万円が相当である。

3 損害の填補

原告が自陳するところによると、原告は自賠責保険から二八万九八五〇円の支払いを受けているので、これを以上の損害に充当することとする。

4 弁護士費用

以上のとおり原告は被告らに対し九六万五一五〇円を請求しうるものであるところ、弁論の全趣旨によれば、被告らは任意の弁済に応じないので原告は弁護士たる本件原告訴訟代理人に本訴の提起と追行を委任し謝金として請求認容額の一割を支払うことを約したことが認められるが、本件事案の難易、本訴追行に対する原告訴訟代理人の態度(右代理人は、当裁判所が同代理人の意見を聞いたうえ指定した同代理人の申立にかかる前記星光平尋問の期日にその事由を明らかにせずに出頭しなかつた。)等本訴にあらわれた一切の事情を斟酌すると、本件事故と相当因果関係のある損害として被告らに負担さすべき弁護士費用としては、うち七万八〇〇〇円とするのが相当である(原告は、弁護士費用を本件事故とは別個の不法行為と構成して請求するものの如くであるが、被告らの不当抗争性については本件全証拠によるもこれを認めるに足りないところ、右請求中には、予備的にこれを本件事故と相当因果関係の範囲内にある損害として請求する趣旨を包含するものと解せられるので、右の如く判示する次第である。)。

六(結論)

よつて、原告の被告らに対する本訴請求のうち一〇四万三一五〇円およびこれから前記五の4の弁護士費用を控除した九六万五一五〇円に対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和四三年一〇月一七日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める部分は理由があるから認容し、その余の請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(並木茂)

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